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2012年03月02日

海外旅日記13 Europe 2003 <7>

10月23日
午前中、サンジェルマン・デ・プレの美容室で髪をカットしてもらった後、街を散歩する。
パリは、観光名所でない普通の通りを歩いていても、建物や路地にそれぞれ特有の雰囲気や表情があり、飽きることがない。
夕方ホテルに戻ると、おととい出会ったFからTelが入った。
7:00から、知り合いの音楽家がパーティーで演奏するので、一緒に行かないかと言う。
今夜は特に予定もなかったので、OKした。
パーティーは、セーヌ川に浮かぶ船の中で行われるという。
Fと船内に入ると、中は2つの大きな部屋に分かれており、そのひとつには、グランドピアノやドラムセット、ベースが置かれ、コンサート会場のように椅子が並べられている。
なんでも新進の画家を紹介する画商が開いたパーティーということで、着飾った人々の間を、シャンパンやワインを持ったボーイが忙しく立ち働いている。
数学者のFは、人々と面識があるらしく、あちこちに行き、談笑。
「なんか映画の中の一シーンみたい・・・」と思いつつ、部屋の隅で眺めていると、Fが突然私を手招きする。「彼女はピアニスト、沈黙を弾くピアニストなんだ。」
彼は、おとといあげた私のCD(Matt Wilsonと2001年にNYで録音し、今年完成した“Dialogue”)の前半の即興演奏を気に入り、そういうふうに言って、友達のバンドリーダーに紹介した。
「やばい!そんなこと言ったら、こんな場違いの中で弾かされちゃうかもしれない・・・!」と心の中では焦ったが、とりあえず「ボンジュール!」と挨拶。
彼らのバンドは、スタンダードJazz。
客はワイングラス片手に、心地よさそうに聴いている。
プログラムが終わったあと、やはり、来た!
「今日はもう一人ピアニストが来ていますので、ちょっと弾いてもらいましょう」
パリは完全にバカンスのつもりだったのに・・・おまけにこの雰囲気の中で、私はどういう演奏をすればいいの?!
一瞬迷ったが、即興演奏はあまりに場違いな気がしたので、結局、オリジナル曲2曲を弾く。
客の反応はおおむね良く、客席に戻ると、「ブラボー!」と何人かに声をかけられたが、その反面、「フン!」とそっぽを向く人もいた。
こういうことだったらいっそ、全員「フン!」と言わせる覚悟で完全即興したほうが良かったのかな・・・? しかし、あえてそれをやるには、まだ自信と覚悟が足りなかった。



10月24日
今日はパリの西、地下鉄7号線の終点セーブルにある陶器美術館へ行く。
たくさんの陶器をながめながら、ふと日本のことを思い出した。
日本から遠く離れた地ヨーロッパで出会う日本の感性は、独自の世界と美しさを放っていて、とても新鮮に映った。



10月25日
今日は、アメリカからやってくるシーラ・ジョーダンというJazzボーカリストのコンサートを聴きに行った。
小さなライブハウスの客席にはフランス人のミュージシャンとおぼしき人々も大勢つめかけ、リラックスしたムードの中で演奏が始まる。
シーラのうたとベースのデュオは、スリリングで素晴らしかった!




10月26日
今日は日曜日。シテ島で開かれる小鳥市や花市をながめたあと、サンシャぺルへ行った。
大きなステンドグラスに囲まれた礼拝堂は別世界のように美しい。
ホテルにいったん戻り一休みした後、数日前にライブハウスで知り合った女性ボーカリストEのコンサートへ行くため、もらった住所を地図で確かめ、地下鉄に乗る。
しかし駅を降りてみると、そこはポルノショップや安ホテルが立ち並ぶ界隈・・・
少し躊躇したものの地図を片手に、なんとか会場にたどり着く。
見ると、Eと一緒にいるのは、別の日に知り合った日本人YさんのボーイフレンドのベーシストJだ。彼らは同じバンドの仲間らしい。
コンサートは、いろいろなジャンル、弾き語りや即興をする若い人たちが次々にステージにあがり、和気あいあいのムードの中で行われていた。
しかし、人々は演奏の前後、休む間もなくしゃべり続ける。そのエナジーはとどまるところを知らない・・・




10月28日
いよいよ今日は日本へ帰る日だ。
フライトは夜の11時なので、ホテルに荷物を預け、街や公園を散歩した後、
夕方、タクシーでシャルルドゴール空港へ向かう。
やっとこの旅も終りだな・・・安堵感と名残惜しさが入り混じった気持ちで、
「Bon Voyage!」というタクシーの運転手の言葉に見送られて、空港のロビーに入る。
と、あれっなんだか様子がおかしい・・・
何か人だかりがしているなと思ったら、警官が何人も入ってきて、物々しい雰囲気。
私たち全員ロビーの隅に誘導され、何ごとかと顔を見合わせているうち、突然、悲鳴と爆発音が聞こえた。
不審な荷物が発見され、それが爆発したらしい。
幸い被害はなく、ロビーも平常を取り戻したので、チェックインカウンターに行くと、なんと今度は、「ごめん!オーバーブッキングしちゃってね・・・席がないの。あなた、明日の便でいい?」と窓口のフランス人にいわれる。そんな・・・
「No! この便で帰れないと困る。」と言うと、出発間際まで空席待ちをする羽目に・・・
ぎりぎりまで落ち着かない思いだったが、最終的にはビジネスクラスで帰ってくることができ、まあ、よかったけど・・・・(疲れた)

それにしても、最後まであわただしい旅だった。
9月29日に出発して一ヵ月・・・出発前の自分の心境を思い出すと、何年も旅をしてきたような錯覚を起こす。
決して楽なものではなかったが、収穫は計り知れないほど大きい。
今まで即興演奏は、実験の場としてとらえていたのだが、このツァーを境に、表現として説得力のあるものに磨き上げたいと本気で思うようになった。


投稿者 yokomiura : 2012年03月02日 19:22